ばっかすの部屋

趣味や関心ごとに関する身辺雑記をチラシの裏に書き散らす。 そんな隠れ家「ばっかすの部屋」

咳をしても一人(A級外盤No.87)

No.87「ソロ」

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Egberto Gismontiの読みについて、長岡先生は「ギスモンティ(ジスモンティ? ヒスモンティ? ヒモンティ?)については何も知らない」としていますが、現在の日本ではエグベルト・ジスモンチで通っているようです。

「楽器はピアノ、ギター、8弦(内4弦はダブル)のギターかマンドリンリュートか、それに仏壇に置いてある鐘(座ぶとんの上にのせてある茶碗型の鐘)の4種類。ただし鐘は大中小3個セットで使っている。音の感じからすると、教会堂か何かで、ペアマイクかワンポイント録音と思われる」とありますが、私の手持ちのレコードのライナーノーツを見ると、使用楽器として「SUPER 8 STRING GUITAR」「SURDO」「COOKING BELLS」「PIANO」「8 STRING GUITAR」の5種がクレジットされ、「RECORDED NOVEMVER 1978 AT TALENT STUDIO, OSLO」と明記されていますから、長岡先生の手元にはこのライナーノーツがなかったと推測されます。

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楽器については、ジャケット写真を見て推察されたのでしょう。

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左から「SUPER 8 STRING GUITAR」「PIANO」「8 STRING GUITAR」「COOKING BELLS」となりますが、「COOKING BELLS」というのはジスモンチが調理用具(下の写真左)からイメージして名付けたのでしょうか、ジャケットの写真はどう見ても仏具の御鈴(おりん)です。「SURDO」というのはブラジルの大太鼓だそうです(下の写真右)。

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さて、録音の方は「ギターが実にリアルで鋭く、厚く、力強く、しかも繊細極まるサウンド。生そのものとってもいいくらいだ」とある通りで、1月14日17日の記事で紹介したギター系レコードとは次元の違う音を堪能できます。「SUPER 8 STRING GUITAR」はフォークギター、「8 STRING GUITAR」はクラシックギターの系統ということで、前者はフィンガーピック、後者は爪弾きと、奏法による音の違いも明確に聴き取れます。

ライナーノーツには、わざわざ「THERE ARE NO GUITAR OVERDUBS...」と注釈が入っていますが、「本当に?」と思うような箇所が散見されるほどの超絶奏法なのでしょう。A面1曲目ではギターとスルドが同時に鳴る部分がありますが、スルドは足で叩いているのか、ギター以外は多重録音しているのか、、、?

ピアノはジャケット写真(ペダル部分のみ)を見ると、黒のピアノフィニッシュではなく、木目の浮いた古びた楽器にも見えますが、小振りのグランドピアノといった感じの音で、特に高音がコロコロと軽く綺麗に鳴っているのが印象的です。

長岡先生は「曲はフュージョンというよりクラシックに近いもの。特にA-2のピアノはドビュッシーフォーレ、B-1、B-3のピアノがいくらかジャズっぽくなって、ガーシュインかアイヴスかマクダウェルかといったところだ」と評していますが、A-2はジョージ・ウィンストン、B-1はカプースチン、B-3はキース・ジャレットを思い起こさせる作風で、どちらかというと、いわゆるクラシックとは一線を画す音楽のように感じます。

別冊FMfan No.24(1979年冬号)の「外盤ジャーナル」では、「だれが聴いてもジャズには聴こえない。ドビュッシーラヴェルフォーレといえば、なるほどとうなずくような曲である。ジャズメンがクラシックに妙なコンプレックスを持つのはわかるが、クラシックの”そっくりさん”を演奏して、それで満足なのかと、ちょっと気になる」と、いささか勇み足ぎみな苦言まで呈しているほどですので、先生にはお気に召さないところがあったようです。


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