ばっかすの部屋

趣味や関心ごとに関する身辺雑記をチラシの裏に書き散らす。 そんな隠れ家「ばっかすの部屋」

巨頭邂逅

立花隆さんが、4月に亡くなっていたと報じられました。時の首相を退陣に追い込んだ「田中角栄研究〜その金脈と人脈」を書いた人物として、当時中学生だった私にもその名が刻み込まれているという、超一流のジャーナリストです。まとまった著作を読んだことはありませんが、新聞への寄稿記事などで目にする明晰な文章に「知の巨人」の片鱗を伺うことはできました。

しかし個人的に記憶に残るのは、何といっても「FM fan」1987年第1号のこの記事です。

f:id:bacchus-r:20210624143142j:plain

f:id:bacchus-r:20210624143146j:plain

f:id:bacchus-r:20210624143150j:plain

「方舟」建築直前の長岡先生のリスニングルームを立花さんが訪問取材するという、共同通信社以外では実現できなかったであろう、夢の顔合わせです。「我家ではマルチの巨大システムを鳴らしている。片チャンネル4本のスピーカーは合計すると百万円は軽く超える」という立花さんが、「スワン」で鳴らされた「輪廻交響楽」を聴いて「椅子からころげ落ちるほどびっくり」し、「どんなに高級なベニア板を使っても一本2万円しないのである。それでこれだけの音がするのだ。私は愕然とした」と、心底驚いた様子で記していることが印象的です。

長岡先生も「スワンに対する驚き方を見てこの人はタダモンじゃないなっと」と応じています。「自宅でコンサートを開き、シェ・タチバナというレーベルでLPを出し、今度はCDを出すという方」とも紹介していますが、そのCDが「とぎれた闇/吉原すみれ」です。

f:id:bacchus-r:20210624143209j:plain

f:id:bacchus-r:20210624143213j:plain

今回、改めて聴いてみましたが、手を伸ばせば触れられるような距離で鳴らされるドライで鮮度の高いパーカッションの音とともに、ホール(というよりリスニングルーム)の狭さや、30人ほどという聴衆の気配もリアルに感じられる優秀録音です。打楽器といっても、ハイテンポでドカドカ鳴らすのとは対極の、楽器から音を慎重に探り出し、丁寧に陳列していくといった趣の、緊張感を強いられる音楽です。

ライナーノーツに記された「河童が覗いた立花家のホール」のイラストから推測すると、リスニングルームの広さは20畳ほどでしょうか。

f:id:bacchus-r:20210624143217j:plain

長岡先生も「FM fan」1987年第7号の「ダイナミックテスト」の巻頭言で、このCDを紹介されています。

f:id:bacchus-r:20210624143204j:plain

「ユニークな、優れた録音だが、実をいうと最初に感じたのは、CDがこのくらいなら、マスターテープはもっと凄いだろうなということ。そして本当の生演奏はもっと凄いだろうなということだった」とありますが、改めて立花さんの訪問記事を見ると、マスターテープを持参して試聴していたことがわかりました。

f:id:bacchus-r:20210624143201j:plain

新たな発見がもうひとつ。立花さんが持参したソフトの中に「古代ギリシャの音楽」「コンセルヴァトワール博物館の名器Vol.2」「デフォス」といった長岡推薦盤に混じって、私の愛聴盤でもあるマリーンの「マイ・フェイバリット・ソングス」が!!

f:id:bacchus-r:20210624143154j:plain
f:id:bacchus-r:20210624161811j:plain

マリーンを聴きながら、立花さんのご冥福をお祈りいたしました。