ばっかすの部屋

趣味や関心ごとに関する身辺雑記をチラシの裏に書き散らす。 そんな隠れ家「ばっかすの部屋」

あしたのために(A級外盤No.77)

No.77「トリプル・コンチェルト、アリア・ダ・カーポ

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「まず冒頭のグランカッサを含む強烈な一撃で度肝を抜いておき、一歩後退して、しかし圧倒的な厚みでベースを確保、クラリネットのジャブとパンチを次々に繰出してくるという感じで、とにかく厚く、太く肉付きがよく、筋骨隆々。たいへんな手ごたえである」・・・A面の「トリプル・コンチェルト」についての、長岡先生の大胆かつ的確な表現には舌を巻くばかりです(「あしたのジョー」の丹下段平の教えをふまえている、と読み解くのは穿ち過ぎでしょうか?)。

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ただ、冒頭の一撃の中にグランカッサ(大太鼓)が含まれているかは、私のシステムでは判然としませんでした(サンダーシートティンパニのようにも聞こえます)。

ソプラノ、バス、コントラバスの各クラリネットと16人のアンサンブル(木管4、金管4、弦5、打2、鍵盤1)による作品ですが、コンチェルトと言っても、クラリネットが前列に並びアンサンブルが後ろに控える、といった配置ではないようです。というか、音場の広がりや奥行きは感じられますが、音像の輪郭や前後関係がはっきりせず、奏者の位置関係が判別しにくい録音です。これも私のシステムの限界なのでしょうか?

B面の「アリア・ダ・カーポ」は、フルート、クラリネット&バス・クラリネット、ヴァイオリン、チェロ、ピアノの五重奏ということで、奏者の位置関係はわかりやすいですが、やはり音像の輪郭は曖昧な感じです(実際のコンサートで聴く音に近い、とも言えます)。

長岡先生は「B面の方はポツン、ポツンとぶつ切り的な鳴り方の典型的な現代曲で面白くない」と評してますが、A面も音色(楽器)の多彩さで優位に立っているものの、「典型的な現代曲」であることに変わりはないと思います。

また、長岡先生は「A面は全員参加」と表現していますが、B面が選抜参加というわけでもなく、フルートとチェロの奏者はA面とB面で異なっています。演奏している「現代音楽集団」(The Group for Contemporary Music)というのは、恐らく常設の団体ではなく、創設者の一人であり当盤の指揮を務めるHarvey Sollbergerの呼びかけに応じてその都度都合がつく演奏者が集まる、といったスタイルを、文字通り「現代音楽のための集まり」と称しているのではないでしょうか。ちなみに、B面のフルート奏者はSopphie Sollbergerとありますので、指揮者の親族のようです。

ピアノにボールドウィン社「SD-10」の使用をクレジットしてあるのは、機材の提供を受けたということかもしれません。

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以上のような分析で、よろしいでしょうか?

君子評変(A級外盤No.32,49)

今回も振り返りネタです。

このところ「別冊FMfan」のバックナンバーを読み返しているのですが、その第27号(1980年秋号)の「長岡鉄男の外盤ジャーナル」における、ご覧のレコードの紹介文に目が止まりました。

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No.32「モーツァルト/Fl&Hp協奏曲」(仏アプロシュ AP009)ですが、「音質だが、一聴してハッとするほどのものはない」「聴感上のレンジはそう広く感じられない」「音はきれいだが、低域は多少締まり不足、あまり迫力のない、ツヤのない音だ」と、まったく評価されていません。そして最後に「ブラスバンド(AP004)は全然ダメ」と、No.49「4つの軍隊行進曲」を一言で切り捨てています。

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一方、「外盤A級セレクション1」では、No.49(AP004)について「中小音量で聴いていると面白くもなんともない録音だが、生演奏と同じ音量まで上げると(一般の家庭、また市販スピーカーでは無理かな)それこそ生そっくりの素晴らしい音になる」と、評価が一変しています。

ここで思い当たるのが、同書冒頭の解説文です。「外盤選びのコツは無手勝流」の項で、「結局、Bクラスと判定されるレコードは正味10分間以下の試聴でお蔵入りとなる。(中略)しかし、また、中には、数年前にBクラス、Cクラスと判定したものを、ある日突然ひっぱり出してきて再試聴するということもある。そしてCクラスから一気にAクラスに昇格したというのもある。人間のやることだから判定に狂いの出ることもあるのだ」と説明されています。これはまさに、No.32,49を念頭に置いての記述だったのではないでしょうか。

No.49については、「続々 長岡鉄男のレコード漫談」(1987年11月初版)でも、「カッティングレベルも低いが、それだけにレンジは広く、ハードでドライで歪みが少なく、ゴーストがなく、おそるべきエネルギーを秘めている。ただし、大音量で聴かないと全然つまらん音だ」(p.249)と高評価となっています。この記事の初出を調べてみると「ステレオ」1985年12月号でしたので、「外盤A級セレクション1」(1984年7月初版)での紹介後ということになりますから、「漫談」で取り上げるために再試聴をした結果、高評価に変わった、というわけではないようです。

 

 ところで上記「別冊FMfan」No.27の表紙、イタリア・ピアジオ社のスクーター「ベスパ」のフロントキャリアに乗せられた、ヤマハのアンプA-7の写真となっていますが、ここはやはりヤマハ「メイト」に乗せて欲しかったところです。

ちなみにこの「別冊FMfan」No.27には、長岡先生による「最新国産アンプ22機種フルテスト」が掲載されていて、ヤマハA-7も取り上げられているのですが、「120Wを楽に出せることも事実であり、このアンプはそこまでパワーを上げていった時に、初めて真価を発揮し、同価格帯のアンプに大きな差をつけるということになるようである」と評されています。

長岡先生の元で、大音量での試聴の有無が評価を分けたレコードとアンプの一瞬の邂逅を、40年前の一冊に垣間見ることができました。

 

 

第三の波(A級外盤No.18,47,76)

No.76「シリウス」の試聴まで進んだのを機に、「外盤A級セレクション」第1巻の三大「波形が見えるディスク」、No.18「力と栄光」No.47「1812年」No.76「シリウス」を振り返ってみましょう。

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それぞれに対する長岡先生の描写は、次のようになっています。

No.18「低域のレベルが中域より高く、20Hzでも中域より高い。おそらく16Hz、10Hzでもある程度のレベルを保っているのだろう」「家鳴振動、ボリュームを上げると、スピーカーか部屋かどっちかがこわれる。また10〜20Hzの超低域でアームが共振して踊り出すおそれもある」

No.47「強烈な衝撃波はカートリッジ、アーム、スピーカーを強襲してガタガタにゆさぶる。スペアナでは20Hzまでしか見れないが、更に超低域までのびているはずだ」

No.76「盤面を見ただけでぞっとする。波形が目に見えるのである。超低域猛烈ハイレベルカッティング、20Hz、25Hzのレベルは恐らく前代未聞、アームは振り回されるし、ウーファーは吹っとぶし、地震のような騒ぎで、超低域に弱い人はめまいや吐き気を催す」「(ボリュームを)上げすぎるとスピーカーか、部屋か、人間か、どれかがこわれる」

これらの文章を見ると、No.76が一番凄そうですが、私の環境では、

No.18:アームが共振してトレース困難。スピーカーユニット(FE108ESII)が大きくバタつくため、ボリュームも上げられない。

No.47:衝撃波で針飛び発生。下手にボリュームを上げると間違いなくユニットが壊れる。

No.76:トレースは問題なし。ボリュームを多少上げてもユニットが壊れそうな振れにはならない。

といった感じで、No.76が比較的おとなしめな印象です。超メジャーレーベルであるドイツ・グラモフォンとしては、トレース困難なレコードを発売するわけにはいかず、カッティングレベルも常識の範囲での最大値に納めてある、ということでしょうか。

農業革命のように、緩やかながら大きな変動をもたらす第一の波。産業革命のように、爆発的に大きな変動をもたらす第二の波。情報革命のように、計算と管理の元に大きな変動をもたらす第三の波。トフラーは、オーディオの世界をも予言していたようです。

いずれにせよ、部屋や人より先にスピーカーが壊れてしまうような10cm一発では、これらのレコードの本当の恐ろしさを知ることはできないわけですが。

シリウスのシ者(A級外盤No.76)

No.76 シュトックハウゼンシリウス

波打ち際に大の字で仰向けに横たわる全裸の男の写真を、天地ひっくり返したジャケットがなかなか強烈ですが、解説に"Cover : Stockhausen takes off from SIRIUS"とあってビックリ。まさに体を張ったシュトックハウゼンの気合のほどが伺われます。

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楽曲の詳細はこちらのサイトに詳しく解説されていますが、4機のUFOが相次いで着陸し、中から現れた4人のシリウス星人(トランペット、ソプラノ歌手、バスクラリネット、バス歌手)が自己紹介のあと様々なメッセージを伝え、再びUFOに乗って離陸していく、という構成の作品です。LP2枚組でトータル96分というのは、ライブパフォーマンスとして必要な長さなのでしょうが、耳で聴くだけの作品としては長すぎで、LP片面30分のダイジェストでも十二分な印象です。

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さて録音ですが、肝心の「波形が目に見える」という第1面冒頭(着陸)と第4面後半(離陸)の「超低域ハイレベルカッティング」の部分は、「アームは振り回されるし、ウーファーは吹っとぶし、地震のような騒ぎで、超低域に弱い人はめまいや吐き気を催す」とおどされるほどの深刻な事態には、残念ながら(?)陥りませんでした。超低音の圧力は感じられますが、少なくともNo.18「力と栄光」No.47「1812年」ほどトレース困難な猛烈カッティングではありません。

一方「ソリストの自己紹介」の部分は、「オンマイクで鮮烈、エネルギッシュなサウンド」という通りで、力強いがヒステリックにはならず、思わず聴き惚れてしまいます。

こうしたサウンドはNo.74,75にも共通した特徴といえますが、カラヤン全盛時のハイ上がりで痩せギスでヒステリックなグラモフォンサウンド時代の中で、異彩を放つもので、シュトックハウゼンのセンスと調整能力の大きさが窺い知れます。

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それにしても、セレクション100枚中3枚もグラモフォンのシュトックハウゼンに割いた長岡先生も、シリウス星の使徒だったのかもしれません。

スイングがなければ、、、

近所のゴミ集積所に「スイングジャーナル」が大量に置かれていました。2年分位をまとめた束が5本ほどありましたから、ざっと10年分でしょうか。

知らなかったのですが、2010年7月号で休刊となったそうですので、10年以上保管されていたものがまとめて処分に出された、ということになります。持ち主に何かあったのか、などと複雑な気持ちになりました。

私も「ステレオ」や「レコード芸術」だけでも35年分以上を抱え込んでいますから、他人事ではないのですが、断捨離する気がなければ意味がない、ですね。

腹に一物 背に十二物(A級外盤No.75)

No.75 シュトックハウゼン「ムジーク・イム・バウフ、黄道十二宮

未聴でしたが、A面の「MUSIK IM BAUCH(おなかの中の音楽)」に針を降ろしてビックリ!! 冒頭から、金属打楽器音がとてつもない生々しさで流れてきます。これだけで超A級決定、という感じです。

ストラスブール打楽器アンサンブルのメンバーによる録音風景が表ジャケットを飾っていますが、ステージ中央で首吊りしている鳥頭の人形(MIRON)に、棒状のムチを持った3人の男がちょっかいを出している写真が4枚。それを前後に挟む形で、MIRONをバックに一同揃っての記念撮影写真が並んでいます。シュールというかグロテスクというかイジメというか、、、 SNSに投稿したら、炎上必至です。

ジャケットはともかく、前述の通り録音は極めて優秀で、思わず引き込まれてしまいます。皮膚を切り裂かれそうなムチをふるう音、それに合わせてリアルに鳴り響くMIRONの体に飾り付けられた小型のベル、ステージを踏み締めるように歩き回る足音、すべてがリアルの極地で、部屋の空気が一変するようです。

シュトックハウゼン自身による詳細なライナーノーツには、進行表や楽譜、楽器指定、舞台配置、照明指示、マイク配置、実演手順などが記されていて、この作品が、見て聴いて体感するライブパフォーマンスとして制作されていることが理解できます。

というわけで、今回はジャケットだけでなく、ライナーノーツも掲載しましょう。

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B面の「TIERKREIS黄道十二宮)」は、緊張を強いられるA面の口直しのデザートといった感じで、はかなげに流れるオルゴールの音に癒されるような気がします。

 

ところで「MUSIK IM BAUCH」で画像検索すると、こんな写真がぞろぞろとヒットしました。

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どうやら胎教音楽のイメージのようですが、この曲を聴かせたらどんな赤ちゃんが生まれてくるでしょう?

和魂洋才(A級外盤No.74)

No.74 シュトックハウゼン「歴年」

一週間を題材とした連作オペラ「光」の「火曜日」第1幕に位置づけられる作品で、オリジナルは雅楽編成で1977年に初演されましたが、このレコードは1979年に初演された西洋楽器バージョンです。

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下の写真は、2014年に再演された雅楽バージョンの舞台です。上のジャケット写真との対比が興味深いのではないでしょうか。

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「楽器編成は日本初演が、笙、竜笛、ひちりき各3、楽箏(十三弦)、琵琶、鉦鼓羯鼓、太鼓各1。これに対応するヴァージョン用の楽器は、ハルモニウム(リードオルガン)、ピッコロ、ソプラノサックス各3、ハープシコード、ギター、カナトコ、ボンゴ、バスドラム各1」とありますが、日本人はこのレコードを聴く時、雅楽器の音色を重ね合わせて楽しめるという特権があります。というより、そういう耳で聴かないと、何とも間延びした、捉え所のない音楽に感じてしまいそうです。

「広く深い音場、厚みと力があり、艶やかな音色。直接音と間接音のバランス。超A級の録音」といえますが、映像が欲しくなる作品でした。