レコード棚を物色していたところ、こんなディスクを発掘しました。
J.S.バッハ/無伴奏ヴァイオリンソナタ&パルティータ
ヘンリク・シェリング(Vn) 仏CBS 78317
一度聴いたか聴かないか(おそらく未聴)という3枚組。BOXの番号はCBS 78317ですが、各レコードの番号は単品発売時のCBS 51068,69,70となっています。
1枚目のソナタ第1番を聴き始めて、びっくり! なんとも流麗で、存在感のある音が流れてきました。「確か、モノラル録音のはずなのに、、、」と思い、添付の解説書を確認すると、やはり「Enregistrement:1954 d'origine monophonique」(1954年のオリジナルモノラル録音)とあります。
「モノラル録音というと、もっと細身でセンターに収斂する感じではなかったか?」「ひょっとして擬似ステレオ??」と疑問がわいてきます。こういう時、以前はプリアンプをモノラルモードに切り替えて確認できたのですが、Nobプリにはそんな余計な機能はありません。
そこで引っ張り出したのが、モノラル録音のこちらのディスク。
J.S.バッハ/無伴奏ヴァイオリンソナタ&パルティータ
ヨーゼフ・シゲティ(Vn)
日キング MX 9031,32,33(AD)
蘭Vanguard Classics 08 8022 72(CD)
CDのブックレットによると、1955年の10月から56年3月にかけて、N.Y.のCBSスタジオでの録音となっていますので、前述のシェリング盤にやや遅れてリリースされたことになります。ADは(P)1978、CDは(P)1956(C)1991とあり、ADは高校2年当時になけなしの小遣いをはたいて買った、私のディスク購入歴最初期のものとなります。
早速、ソナタ第1番をADで聴き始めます。シゲティ独特の、ぶっきらぼうとも言える硬質な響きが、モノラルとしてはやや膨らみ気味で流れてきます。次にCD。こちらの方が、やや細身かもしれませんが、基本的な音調は同様です。いずれも疑似ステではありません。
モノラルがモノラルとしてきちんと再生されていないとすれば、システムの左右位相特性にズレがあることにもなりかねません。が、演奏者の存在感が増して聴こえるとすれば、システムの美点とも考えられます。要は気の持ちよう?
手持ちはアルヒーフのバッハ大全集第6巻(独アルヒーフ 2 722 012)所収のもので、1967年7月、スイスのヴヴェイ劇場での録音とあります。
これを再生すると、音像はさらに膨らみを持ち、スピーカーのやや後方に定位し、左右に揺れるさまも感じられます。これぞステレオ!
というわけで、ステレオもモノラルも実在感をもって再生できる、素晴らしいシステムであることが確認できました!??? というか、ヴァイオリン・ソロはモノラルでもかなり聴ける、ということでしょうね。
ちなみにシゲティ(1892-1973)は63歳頃、シェリング(1918-1988)はモノラルが36歳頃、ステレオが49歳頃の録音となりますが、その演奏は、
・シゲティは楽譜を読み解きながら、一音一音刻み込むように弾く
・モノラルのシェリングは、楽譜を先読みしてスイスイと流れるように弾く
・ステレオのシェリングは、楽譜を置きつつも、しっかり暗譜して弾く
といった感じでしょうか。奏者の個性や年齢による変化を考えさせられる試聴となりました。
ところで、シェリングのモノラル盤は録音データが不明ですが、モノラルにしてはエコーが豊かで、時折車の走行音のようなノイズが入りますので、教会での録音かもしれません。