AV Watchの記事で「マイクでレコード針が音溝をこする音を拾う」と紹介された「MEMSカートリッジ」について調べてみました。
発売元の沢田工業のサイトのトップページでも、
レコード盤の溝を針がこすることで、空気を振動させて音が出ます。
この小さな音を、マイクの先にホーンを付けて拾います。
音はホーン(音導管)の中を通って130dBの音圧になりMEMSマイクに伝わります。
MEMSマイクは捉えた音を、出力電圧250mVの音声信号に変えます。
と技術解説しています。この説明だと、やはり「針がこする音をマイクで拾っている」ことになり、「ハウリングが起こるんじゃないの?」という疑問が生じてしまいます。
一方、商品詳細のページでは、
カンチレバーの振動を左右の音導管に導いて、その音圧をマイクで捉える構造です。
としています。この説明だと「針先で拾った振動を、音導管を介して空気振動として伝送し、その音圧をマイクで捉える」ことになります。これなら納得できます。
開発ヒストリーのページに示された「特許6695532号」を検索して確認すると、
【請求項1】
トーンアームに取り付けられるカートリッジベース部材と、
前記カートリッジベース部材が前記トーンアームに取り付けられた状態でアナログレコードに面する面に設けられ、前記アナログレコードから振動を拾うピックアップ素子と、を有し、
前記カートリッジベース部材が、
前記ピックアップ素子が拾った振動を伝達する音導管と、
前記音導管のうち前記ピックアップ素子が設けられる側に設けられる第1の開口部を塞ぎ、かつ、前記ピックアップ素子を支持して前記ピックアップ素子が拾った振動を前記音導管に伝達する弾性部材と、
前記音導管のうち前記ピックアップ素子が設けられる側とは反対に設けられる第2の開口部を塞ぐように設けられるマイクと、を有するピックアップカートリッジ。
となっていました。
「詳細な説明」と併せ読むと「ピックアップ素子(針先とカンチレバー)で拾った振動を、弾性部材(ダンパー)で音圧変換し、音導管で伝送し、MEMSマイクで捉える」といった構成であると理解できます。圧電式カートリッジの一種といえるでしょうか。
このような構成ですから、ダンパー素材の物性が、音質(周波数特性)に大きく影響しそうです(特に高域)。音導管の両端は、ダンパーとMEMSマイクで密封されているので、外部の音圧(再生音)の影響はほとんど受けないのでしょう。
開発者の宮司正之氏の本職は庭師ということですが、趣味のオーディオが高じて55万円のカートリッジ発売に至るのですから、感服するしかありません。これで音質が素晴らしければ、カートリッジの新時代が切り拓かれるかもしれませんが、さて、、、?